『めがねの本音はわかりにくい。』
2017小鳩さんHPB企画(原作設定)です♪
A4ペラ一枚くらいの短さ(笑)
本文は追記からどうぞ~。
『めがねの本音はわかりにくい。』
藤本清和は悩んでいた。
気がついたのは昨日あたりから。準備万端のつもりでいたが、しかし肝心の一言をいつどこで、どう切り出したら良いのか。これまでは外で会うことの方が多く、きっかけがあったから言えていた。けれど結婚して初めての、今回からはそうじゃない。そう唐突に思い至り、いくつかのパターンを想定してみるも、どの手も不得手で。あっという間に脳がスパークした。仕事疲れもしているし、さすがに夜も眠れないということはなかったが、案件を夢にまで持ち込んでゴチャゴチャと何やらうなされたような自覚はある。
おかげで朝から、妻の小鳩が心配顔だ。困った。
「夕べ、よく眠れなかったんですか?」
「ん、」
そうかもなと、軽く頷く。一緒に住むようになってから、そんなことはないと意地になることも減ってきた。どうせバレてしまうというか、バレているからだ。連続した時間を共有するというのはそういうもので、肩ひじを張らなくていい安心感もある。
その代わりタイミングもつかみにくいのが、今回の問題なわけだが。
「――こばと、」
「はい?」
「……いや、そこのコーヒー取ってくれないか」
「はい!」
笑った声に心が和む。和むが、そうじゃない。小鳩サービスのコーヒーに、セルフサービスの突っ込みをかき混ぜて、清和は飲み込んだ。苦味がじわりと、頭に届く。鈍い思考が少しマシになった気がして、もう一度口を開いた。
「こ、」
「あ、清和さん」
見事にかき消される。
「めがね、くもっちゃいましたね」
くすくすと、何故だか嬉しそうに小鳩が言った。
「……コーヒー飲んだからな」
当たり前の科白を返すうち、晴れ切らぬ眼鏡越しに彼女がまた笑った。本当にタイミングがつかめない。再び思い、清和は忍び損ねたため息を、手遅れと知りつつ喉で止めた。
「ああ、もう出かける時間ですよ」
ちょうど時計を見ていて、気がつかなかった小鳩にほっとする。危ないところだった。
(いや待て……?)
むしろ気づいてくれた方が良かったのかもしれない。きっかけが欲しい身としては。
「…………そうだな、」
結局何も言い出せず、清和は玄関に向かい、靴を履き、見送る彼女を振り返った。
「今日は、できるだけ早めに帰る」
せめてこれくらいはと、しっかりめに伝えてみた。小鳩はぱちくりと目を開いて、「はい!」と顔をほころばせてくれた。が、それで彼女が解ったのか解らなかったのかは、清和には判らなかった。
うーんと、清和の眉間に皺が寄りかけた瞬間、あ、と小鳩が声を漏らす。
「なんだ?」
呟くよりも早く、ふとゆるんだ空気の中を、するりと小鳩の両腕が泳いだ。
「鼻めがねさんですよ?」
清和の眼鏡のツルを、優しい指先が持ち上げる。
俄かに合ったピントに、悩んでいたものがぱっと飛び去った気がした。今だ――と、思わずに思い、清和は離れかけた手を取った。
「こばと、」
「はい?」
「誕生日おめでとう」
言えてしまって拍子抜けた自分を、小鳩が吃驚したように見つめてくる。
「だからその、……できるだけ、早く帰る」
さすがに伝わったのだろう。みるみる頬を紅潮させたと思ったら、「……ありがとうございます!」と、小鳩は倒れ込むようにして、勢いの割に控えめにしがみついてきた。
けれどなんだか、その。いつもより熱くて。長い。
ちょっと珍しい反応で、清和は瞠目した。それから、ごく緩やかな衝動が湧いてしまう。少しだけ理性的に、抱きしめ返すことにした。
「……じゃ、行ってくるな?」
告げてはみたものの、なかなか離す気になれなかった。
fin
<後書き>
結婚して最初の小鳩さんバースデー。
イラスト集を見る限り、原作の小鳩さんは割と兄さんの一挙手一投足に赤面してきゅーん!てなってそうだなぁと。
元ネタはノートにあったラクガキ(→鼻めがねを直している小鳩さん)より。
こんなお話に結びつくと思ってなかったんですが、描いとくものですね(笑)