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⊿delta

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『昼下がりの×××』

『こばと。』二次小説up。

バースデー企画ではありませんごめんなさい。
なので日付も変えてあります。
詳しいことは後書きで!

さてちょっと急いでるので、バタバタとupだけしていきます今日は。
(でもでも小鳩ちゃん誕生日おめでとー!と叫ぶだけはしておく本当は11/2の今日)
そして慌ただしすぎてチェックがいつもより甘めなので、きっと後でこっそり手直しとかします。

では本編は追記からどうぞー。




 『昼下がりの×××』



 ――じゅんびばんたん! です!
 むふふと、小鳩は口角を持ち上げた。両手には干したてホヤホヤのお布団。押しつけた鼻先から、晴れ空の匂いがいっぱいにやって来る。ベランダでたくさん育てている植物たちの、葉や花から浮かび上がった香りも混じって。季節ごとに少しずつ違うそれを、こうして目をつむって抱きしめて、心と体を満タンにしていくのが小鳩は好きだ。ごくごくと水を飲むように味わっていたが、パ、と目を開いた。
 ああっ、いけません。
 慌てて顔を上げて、けれど勢い良くは振り向かないように……そっ、そそそ~うっと視線を後ろに流す。特に気づかない様子の夫――清和に、ほっと胸を撫で下ろした。心にナイショを持っていると、どうしてこうも緊張するのだろう。目に見えるハズもないのに。
 生真面目な動きで掃除機をかけている彼は、時折強く眉間に皺を寄せ、不機嫌の塊のような人相で立ち止まったりしていた。特に怒ってはいな……いや、怒っているようだ。今日は朝からやってきて、今はテーブルでおやつを頬張っては散らかしているいおりょぎに。ひょいと赤い首輪に指を引っ掛け、清和がいおりょぎを、ぽいとソファに投げた。捲し立てるダミ声を尻目に、そ知らぬ顔でテーブル上のゴミ(と化したモノ)を片付けている。
 あ、また。
 小鳩は気づいて、瞬きをした。
 清和が足を止めて、ふと眼鏡を外す。ぐにっと瞳を閉じて、頭を振った。眼鏡をかけ直して、また掃除を始めた。
 ベランダ側から見る室内は、なんだか映画の中のように遠い。隔てられて、よく見渡せる。さっと風が吹いて、小鳩は決意を新たに奮い立った。時計は良い時間を示している。計画通り、予定通りだ。
 両手に余るフカフカお布団と一緒に、内側へ戻った。



 清和はいつの間にか寄ってきていた。「貸せ」なんて低く呟かれて、急に軽くなった手元に吃驚して、「えぇっ?」と小鳩はちょっとよろめく。掃除機はどこにやったのだろうと、頭を掠めた。途端、はたと思い起して、遠ざかる寸前の布団を必死でつかみ、奪い返した。
「だ、だめですっ!」
「!?」
 予想以上に余った勢いは当然、今度は清和をよろけさせる。ぽふん、と少しの埃が舞った。夫婦で仲良く布団をサンドイッチしたと思ったら、小鳩の足がまたもつれた。ふぇ? とは声にならなかった。
「危なっ」
 だからこれは彼の声だ。
 一瞬の無重力の後、自分が頭から後ろに落ちていっている最中だと、小鳩は気づいた。一度スローモーションで遠ざかった清和の顔と温もりが、色んな法則を無視したもの凄いスピードで近づいてくる。引き戻される力に、少しむせた。がったーん! と、音がした時には彼を下にして――サンドイッチ再び完成。ぐっ、と生肉を潰したような嫌な音とセット。仲良く一緒に転がってきて、掃除機の行方も知れた。単に小鳩からは死角だったのだろう。どうやら普通に壁際に立てかけてあったらしい。
 いやいやしかし、そんなことはどうでもいい。
「清和さん!?」
 きゃあっと、小鳩の悲鳴がベランダから外へ轟く。
「……おまえらなにやってんだ?」
 呆れたいおりょぎの声が、打って変わって静かに響いた。



 ――もうね、すっごかったの。
 ――そ、そんなにですか!?
 ――ほんとほんと。だから、良かったらこばとちゃんも……



「清和さん清和さん! 清和さぁん!」
「~~~~んなデカイ声出すな。ご近所に……」
「清和さんっ!」
「うわっ!?」
 丸聞こえだろう、と言いたかったのだが、代わりに出てきたのはまた悲鳴だった。我ながら素っ頓狂な声だと、清和は思う。妻の小鳩はこうして自分を慌てさせたり動じさせたりするのが得意技だ。ぎゅむっと、布団ごと飛び込んでこられて、ひなたの匂いが舞い上がった。
「けがっ! どこもお怪我してませんか!?」
「してない。だから落ち着け」
 近づいてきたもっといい匂いをつかまえて、清和はつとめて冷静に答える。ぶつけた背は痛いが、特に傷めた様子はないので嘘は言っていない。さすがにずれた眼鏡は、とりあえず元通りに調整した。こちらも特に歪んではいないようだ。ちゃんとピントの合った視界には、やっぱり涙目の小鳩がいた。
「そ・れ・よ・り、だ」
「ふひゃっ!?」
 ついつい鼻息を荒く吐いて、清和は小鳩の両頬を引っ張る。一見し、すべすべな首筋にも、細い指先にも――とにかくどこにも傷がついてない様子の彼女に安心したことは、欠けらもおくびに出さず。
「急に引っ張ったら危ないだろうが! なに考えてんだおまえはっ」
「ごっ、ごめんなひゃい~っ」
「しかもおまえ、よりによって頭からいっただろう!? 後ろベランダだぞ! コンクリだぞ!?」
「ひゃ、ひゃってきひょひゃしゅひゃんがっ!」
 だって清和さんが! と、弁明を始める様子の小鳩に、清和――職業 弁護士――は思わず両手を離した。つまりそういう、どんな場合にもちゃんと話を聞いてみないことには始まらない商売をしているのが自分だ。だから話はちゃんと聞く。この場合、怒っている(しかしそんなに本気でもない)のも自分だというのに、まったく変な条件反射で、清和はピタリと態度を変えた。
「なんだ」
 が、口調と仏頂面までは変わらない。
「おふとん、もっていっちゃうから……」
「布団?」
 ああまあ確かに、急に取ろうとはしたかもしれない。
 ひょっとして思った以上に驚かせたのか? と、首を捻りつつも、清和はつり上がった目くじらを少し緩めた。
「びっくりさせたんなら、俺も悪かった。――けど、寝室に持って行くんだろう? 違うのか?」
「い、いつもならそうですけど! 今日はこれから使うんです!」
「はぁ?」
 どうもわからない。
「……どこで」
「ここですっ」
「なにに」
「なにって……寝る以外、なにに使うんですか? 清和さん」
 それはもうふしぎそうに首を傾げる小鳩に、清和は再び三角になりそうな目くじらをぐっと押さえ込んで、ひとつため息をついた。
「~~~~そりゃそうだが、なんでここで寝るんだ」
「ジョージだからです!」
 はつらつと響いたとんでもない単語に、両目が白く点になった。



 ああっ、と小鳩は高らかに声を上げた。びくぅっと、同時に跳ね上がった清和を見上げて、おろおろと首を振った。
「ちがっ、ちがうんですナイショだったんです~!」
 ああまあそりゃあナイショにもするだろうよ。
 心中で温く呟いたのは、藤本家ツッコミ担当のいおりょぎである。ただし小鳩の意図を正しく知ってのことではない。
(ま、ほんとにそーゆー意味なら、だけどな)
 どうせ違うんだろうとは、長い付き合いなのですぐ見当がつく。なのにここの家主は毎度毎度、飽きもせず狼狽えるのだから芸のないことだと、いおりょぎはソファから顔を出して頬杖をついた。
 巻き込まれないためには近寄らない。
 賢明な判断を下して、遠くで見守り隊――今日は隊員一人――に徹することとする。
「は、え!? じょ、じょ……っておまっ、なに言っ!」
 むしろお前が何言ってんだというくらい、舌の回らない清和にいおりょぎは視線を投げた。
「ジョージはジョージです! て、ああ~! もうもうっ、こばと、また言っちゃいました~!」
 いやいや今更もう何度言っても同じだろうよ、と小鳩にも視線を投げかける。
「せっかくナイショで、清和さんに喜んでもらおうって……」
「よろこ!? ……ぶって、いや、その……」
「こんなじゃ、嬉しさ半減ですよね……」
「いやっ、半減とかそーゆーことは……!」
「ほんとうですか!?」
「! や、そりゃおまえ、そそそうだろう!?」
 ところで未だベランダの窓は全開なのだが。ご近所云々は最早どうでもいいらしい。
 伸びる陽射しはソファまで届かず、けれど昼下がりの心地良さはふわふわと漂ってくる。ついでにバカップルを取り巻く、なにやらあま~い空気も。細く飴を延ばしたように、小鳩の髪が光っていた。なんとも良い天気だ。両の瞼が閉じかけるのに、いおりょぎはわざわざ逆らう気もしなかった。
「じゃああの、清和さん?」
 恥らうように呼びかける声――も漂ってくる。
 そばだてたままの耳は律儀に反応して、けれどあっと言う間にへたれた。頬を預けた丸い手に、眠気はいっそう重く寄り掛かる。そろそろ頭が落ちそうだと、わかっているのに止められない。「あ、ああ」と頷く清和を、いおりょぎは薄く遠い視界に眺めた。
「今からその、こばとと一緒に見てくれますか?」
「見……!?」
 それもそれで問題あんな。
 浮かんだところで、意識は途切れた。



 効果絶大です……。
 きっちりと窓を閉め、カーテンも閉め切ったリビングで、小鳩は静かに首を起こした。
 青白い光が柔らかに明滅している。絨毯に座って、二人ソファに寄っ掛かっていた。布団にくるまって生じた温もり。汗ばんだものが、外気に触れると少し凍える。その肌の上をすうっと、淡いゆらめきがまた横切っていった。体の中を波が寄せて返して、呼吸が深く満ちていった。
 清和さんは寒くないでしょうか?
 ふと思ったが、よく眠っている彼にそれは余計なことの気もした。それになんだか、安心してもたれかかってくれている気もする。本当に効果絶大だったのだと、小鳩は微笑みに嬉しさを滲ませた。
 さいきんよく眼鏡を外して、ぎゅうって目をつぶったり、こすったりしてらっしゃって。いつもよりお疲れに見えるんです……。
 零してしまった相手は裕美さん。昔、小鳩がバイトをしていた欧風菓子チロル、そこの店長さんの――今は奥さんだ。小鳩たちよりずっと早くゴールインした二人とは、今でも仲良くお付き合いをしている。
 その日の小鳩と裕美は、たまたま買い物先で会って、時間があったからお茶をすることにした。そうなると必然、お互い大好きな旦那様の話にばかり、花がわんさか咲いてしまった。それはもう、例えるなら大小とりどり色とりどり、春夏秋冬すべてを束ねて束ねきらぬ花模様。彼女も自分も明白に、結婚した今でもずっと相手に恋をしているせいか、途絶えぬ話題に注文した紅茶のカップも、幾度か注がれたお冷のグラスも乾き切り、なのに喉も唇もすっかり渇いてしまうほどだった。
『気に入らないところとかはないの?』
『ええ? ゆみさんはあるんですか?』
『ううん~そう言われると……』
『ああでも、気になることならあるかもしれません』
『えっ、なになに~…………、
 そんなわけで成り行きのようにしてしまった相談の結果が、今日、今の彼だ。
 ちらりと小鳩は、また清和を見上げる。間違いなく眠っている。示された効果に、心の底から裕美と――テレビ画面を流れるものに感謝した。
 やっぱりお疲れ気味だった店長さんのため、裕美が選んで一緒に見たと言うDVD。
 それをお茶の後、彼女はわざわざ家まで取りに行って貸してくれたのだ。おかげで見事、清和はこうして気持ち良さそうに眠っている。少しバレはしたけども、はかりごとがうまくいって、清和の寝息がとても安らかで、小鳩はむずむずと浮き立つ気持ちでいっぱいになった。裕美さんにどんなお礼をしましょうかと、今から楽しんで悩むことにした。
「む……?」
 と、ソファの端で、いおりょぎが寝返りを打つ。こちらは小鳩たちがここにへたり込む前から、いつの間にか眠っていたようだった。ぺろんと丸出しになったオナカは可愛いが、風邪を引いてしまう。清和を起こさないよう、小鳩は届く範囲で片手を一生懸命に延ばした。ずるずるずるっと、なんとかいおりょぎを手繰り寄せ、布団の隅っこに滑り込ませる。小鳩にしてはぞんざいな仕草だったが、そんなことでいおりょぎはちっとも起きないとよく知っているからのことだ。むにゃっと一瞬、幸せそうにふやけた寝顔を見つけて、ふふっと小鳩も笑った。
 気持ちの引力に従って、小鳩は清和の肩に頭を寄せてみる。彼のくくった髪が見えて、なんとなく手を伸ばした。邪魔だったのか、後ろ首から体の前に回して垂らしている。起きてる時はなかなか触らせてくれないから、これは絶好のチャンスだ。
 さらさらです~。
 毛先から短く一筋、人差し指に絡めると、するっと落ちる。軽く摘んで、指の腹で滑らしてみた。そんなはずもないのに温もりを感じるのは、相手が清和だからに他ならない。好きで好きで大好きで、彼にこんなふうに触れられる距離を許されているのが自分で、なんて贅沢な時間なのだろうと小鳩は噛み締めた。細胞の全部まで満ちてくる喜びに、小さな手遊びを繰り返してしまう。
 そして小鳩も、指先の感覚を最後に意識を手放した。



 ぴんっと、髪を引かれる痛みに覚醒した。深かった眠りが弾けて、清和は少し呆ける。ああ、と置かれた状況を見回して、こいつの仕業か……と小鳩を見下ろした。
 水音が聴こえる。
 追って寝ぼけ眼は、彼女からずり落ちた布団を見つけた。くっついている側の半身はあまり動かさないようにして、清和は残った片手を伸ばす。届くところに布団があったのはたいへん助かった。引っ張り上げ、彼女にかけてやり、なんとも短絡的に満足した。
 戻そうとした手の上を、水影が走る。
 そうだ、と清和はやにわに顔をしかめた。こっちもこいつの仕業だった、と未だ流れ続ける映像に一瞥を投げた。まさしく投げやりに投げた。
 それは美しいフォルムで泳ぎ、人の耳には及ばぬ声で鳴いていた。それでいて響いてくる。人の深いところを撫でるように。
 ――それはいい。それはいいのだが。
 リビングテーブルに置いたケース。そこに書かれたタイトルに、清和はこめかみを痛ませる。いいかげんにも程があるだろ、とため息をついた。まったく本当にふざけている。
『あ、こちらのイルカさんがジョージさんと仰るようですよ清和さん!』
 つまりコトの真相は、そういう話だった。勘違いした自分がとてつもなく気恥ずかしく、また憎らしい。第一、今日はいおりょぎだっているのに、そんなわけがなかったのだ。まったく憎らしい。
 けれど勘違いさせるような言動をした彼女については、憎さ余って可愛さ百倍だった。だってそうだろう。
『こういうの、癒し系DVDっていうんだそうです!』
『ああ。だからイルカか……』
『清和さんたらここのところ、お疲れが抜けきらないようでしたし、こばと心配で……』
『……や、別にそんなことは、』
『あ・り・ま・すっ!』
『そ、そうか?』
『はい! さっきだってぎゅう~! って、しかめつらなさってましたし……』
『してた、か?』
『してました! ……だからほらこうしてっ! お布団を用意しておけばいつでも寝てしまえるでしょう?』
『ちょっ、近……っ』
『えぇ? お嫌ですか? こばととおとなり……』
 ――いいや嫌なんて思うはずがない。
 もうワザと訊いてるんじゃないかと、清和はほんとうにほんの時々、一瞬の半分くらいは勘繰ってしまうものだ。彼女の涙目はいつも本気だから、すぐにそんな疑いは消し飛んでしまうのだが。それにこんな優しい動機で、自分のために一生懸命に悩んでくれて、たまの休日を少しでも心地良くしようとしてくれる愛妻だ。自分を翻弄する天然なところは小憎らしいけれど、そんなのはただ、幸せなだけなのだ。結局残るのは、どうしようもない愛しさにすぎない。
 清和は再び目を閉じることにした。
 こうしていると、件のイルカがすぐ傍らで泳いでいる気がする。画面から零れた海に、部屋ごと沈められていくみたいだ。たちまち底まで引きずられる感覚に、不真面目なタイトルはともかく効果は本物のようだと複雑に思った。
 イルカが細く長く鳴いている。旋律のない歌を歌うように。
 なにか、似てるな。
 腕に絡みついた小鳩の寝息だろうか。鼓動だろうか。それとも自分の。
 次に目覚めるまでは溶けていたい――一緒に。
 途方もない広がりに、自ら進んで呑み込まれた。


      ◆      ◆


 立ち寄ったのが不運だった。たぶんそうとしか言いようがない。
「おや藤本君」
「あら」
 見知った笑顔で、店長が「いらっしゃい」と続ける。眺めていたショーケースから振り返って、これまたよく知る女性が笑った。二倍の笑顔に、何故かちょっと身を引いてしまったのは、思えば第六感というヤツだったかもしれない。余所ゆきの体(てい)に固まったまま、清和は軽く会釈を返した。
「今日もこばとさんにおみやげですか?」
 からかうでもない質問に詰まって、更に固まってしまう。聞き逃さず、まだ会計前らしい彼女――千歳が、無言で笑みを深くした。にじり寄る居心地の悪さに帰りたくなったが、それもバツが悪く思えて、清和はなんとか踏みとどまった。
「……その、新商品が出たって聞いたものですから」
 と言って素直にも頷けず、苦しい言い訳(いいや言い訳じゃない、それも本当だ)を口にする。
「ああ、なるほどそれで寄ってくださったんですね? ありがとうございます」
 純朴な店長は、純朴故にそれ以上の追及はしなかった。こちらがありがとうございますと言いたいくらいだと、清和は胸を撫で下ろした。
「チロルのケーキはどれも美味しいものね」
 しかし相槌を打った千歳については、そうも一筋縄ではいかないとよくよく知っている。
 清和は再び身構え、美しく陳列されたケーキを端から順に見つめる素振りを始めた。ほうと、隣で千歳がゆかしいため息をついた。
「どれも素敵でなかなか決まらないから困ってしまうわ」
「ありがとうございます」
「店長さんのオススメはなぁに?」
「そうですね。定番はもちろん皆さんよく買っていってくださるのですが……今日は良い葡萄が手に入ったので、こちらとか」
「あら綺麗! これも新商品?」
「はい。ちょうど今が季節ですから」
「そうよね。ほんとう、宝石みたいに美味しそうだわ~。きっとこばとさんも好きなんじゃないかしら?」
 ――きた。
 目を合わせないようにして、清和は「そうですね」と短く答える。心の準備があれば、これくらいはなんとかなるものだ。けれど長くはもたないので、こうなったらいっそ先に店を出るのが得策だ、さっさと決めてしまおうと決断した。無駄に速い速度で脳味噌を回転させ、顔を上げた。
「じゃあそれと、」
「はい」
「残りの新商品をひとつずつお願いします」
「はい、ありがとうございます」
 ミッションをひとつ完了させて、気を緩めたのが失敗だったのかなんなのか。
「そう言えば、あれはどうでしたか?」
 問うた店長の笑顔に、嫌な予感が背中を滑り落ちた。まさか。いいやそう言えば。
 ――アレハダレニカリタトイッテイタ?
「え」
 応えるのと同時に、ちゃりんと、受け取った釣り銭が財布の中で跳ねる。
「ジョージですよ」
「!」
「昼下がりの」
 凍りついた。






 fin.


<後書き>
こんなしょうもないお話ですすすすすみません(土下座)
ほんとは最後をちょっといじれば小鳩さんのバースデー話にも出来そうだとは思ったのです。
チロルはケーキ屋さんだし。
だけど「バカでるた! おまえはそんなでいいのか!? そこまでのやっつけを許すのか~!?」と自分で自分を心の中でたこ殴りにし、叱咤激励。
そういうことで本小説の日付は11/1に繰り下げました。
バースデーはバースデーで前からちゃんと別にネタがあるので、どんなに遅くなってもそっちを頑張ります!
あ、おまけですが↑の元となったイラストの手塗りver(線画は印刷)です。→

COMMENT

『暗くなるまで待って』。

と、後ほど奥さまがおっしゃったのかは存じ上げませんけれど。
ええと、『アパートの鍵貸します』と(ドラマCDで)叫んでいらっしゃったのは、いおりょぎさんでしたか(笑)。てか、旦那は、また勝手に勘違ったのですねぇ(半笑)。
たのしいお話を、どうもありがとうございました。お誕生日話も楽しみに待っておりますー(督促か)(いえ滅相もない)。
しかし、イルカさんのお名前が『ジョーズ』でなくて何よりでした。ん。あ、いや。お布団の中ではジョーズでも良(たこ殴り強制終了)…。

以上、どの作品も観たことがない 五月でした ←酷過ぎる

Re: 『暗くなるまで待って』。

▽五月生さま
いらっしゃいませ~(´∀`)

>『暗くなるまで待って』
wwwwwwww←大爆笑
い、言ったかもしれませんね……!
これ見た時、ツボりすぎてしばらく腰が砕けました(笑)

>ジョーズ
えと、夜営ジョーズとか…?
あ、『暗くなったらジョーズ』!←殴
いやー小鳩さん逃げてー!←楽しそう

そーかー。
昼から夜にかけてイルカからサメに進化するのかぁ。
兄さん…(生温い目)

アパートの鍵借りたいですねぇ。
ネタに困らなさそうです(真剣)

そんな私もどれも観たことはありませんがw

それでは。

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