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⊿delta

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『花は紫、天使は月見遊山。』後篇

『こばと。』二次小説up。

後篇でーす。

ややややっと書き終った…!
細かいところを愚図愚図と気にしていたらこんなに時が経ってしまいました。
え、時魔法かな?←違

あ、コメント確認しております!
お気遣い有難う御座います。・゚・(ノд`)・゚・。
がっつり甘えさせていただいてます、もう少しお待ちください!←殴


それでは、本文は追記からお願いしまーす。




 『花は紫、天使は月見遊山。』後篇



 其ノ六 歌ノ鏡

  うかぶさらさら しろがねのひかり
  いついつ かえる
  かえりゃせぬ
  かえらぬとても ここにある

  みちるさらさら まるいしのひかり
  いついつ さめる
  わかりゃせぬ
  わからぬとても ここにある

  まどかつきよに ひびくこえ
  ふたつそろえば みちつなぐ

  うたのかがみに つきひとつ
  うつしわかてば つきふたつ……

 病の床で、母がそらんじた。
 命の火はもう消えかけて、冷たくて。手を握り締めているのに、少しも混ざらなくなった温度が怖かった。
 ……あなたも、知っているわね。
 死の影を背負ってなお、母は優しかった。ときおり苦しげな様子を見せても、しなやかな瞳の奥に仕舞い込んで、必ず笑ってくれた。いつも泣きそうで、泣いてしまっていたのは自分だけだった。
 おぼえておいてと、言った声の細さ。そのまま小さく、消えてしまうかのような。もうしゃべらないでやすんでと、小鳩は言いたくて言えなかった。そうしたらどうなるのか、粟立つ全身が悟っていた。
 それはあなたを、まもってくれるもの。
 注がれた視線だけで、なんのことかはすぐに分かった。自分の首元で揺れる、古い御守り袋。引き継がれた水晶。きらきらときれいで、ずっと昔から大好きだった。いつかはあなたのものよと、告げられた時は嬉しかった。けれど解っていなかった。それがこんな時だと、ちっとも解っていなかった。
 小鳩はぶんぶんと、精一杯に頭を振った。おかあさん――おかあさんをまもって。声にならない願いが胸に詰まって、張り裂けそうに痛かった。
 母はちょっと目を丸くして、それからやっぱり微笑った。いいのよと、呟くように。なにもかも、すっかりわかっているように。
 ……まぁるいお月さま、好きでしょう?
 唐突な問いかけは、小鳩を少なからず驚かせた。じわりと浮かべた涙が、束の間、乾く程度には。いたずらっぽく響いた母の声は、元気だった頃を彷彿とさせた。
 でもね。そんな夜に……月のしらべを詠んではだめよ。声をふたつ重ねて――歌ってはだめなの。
 おぼえておいてと、母はもう一度言った。今度はほんの少しの、険しさを含んで。
 月のない、暗い別れの夜だった。

「人でいたいのなら、決して――と。母はあのとき、確かにそう言ったんです」
 訪れた琥珀に、小鳩は静かに語った。
「月のしらべ……ですか?」
「はい。
 ずうっと昔……わたしたちのご先祖様には、もともと人でない方がいたんです。その方は月からいらして、人と結ばれて。だからわたしにも、やっぱりその血が流れているんです」
「人の世界に生きるのだからと、一族の皆さんは人のままでいることを選択しました。でもそのためには、強すぎる血を封じる必要があったんです。月の方は――だからわたしを守り石として残したんです」
 寄り添った水晶が、そっと補足をしてくれた。会うのは前の満月以来だ。藤の枝には清和。根には水晶がいていおりょぎがいて。嬉しい気持ちのままに、小鳩は微笑みを浮かべた。
 うーんと、琥珀が顎に片手を添える。おっとりと優しげで、つい見惚れてしまうような仕草だ。小鳩の目には、その背に綺麗な光も視えていた。今日初めて会ったのに、親しみやすさを覚えるような。柔らかな佇まいが、とても美しく映っていた。
「つまりあの、」
「はい」
「こばとさんはそれを歌って、人でなくなったのですか?」
「はい。水晶さんと」
 その日を振り返りながら、小鳩は水晶を見つめた。にこりと微笑み返す瞳に、そっくりな自分が映っている。
 分かたれたのは、他ならぬ自分たちだった。人でなくなった小鳩は、水晶が長く封じてきたものを受け取って。水晶はそれから先、何を封じる必要も無くなった。だからこそ、ふたり別々に在る道がひらけたのだ。そうして小鳩は此処に、水晶はいおりょぎの処にいる。
 と、小鳩の頭に、ぬくもりが載った。――清和だ。腰かけた枝で、そっぽを向いている。少し怪訝に思ったが、小鳩はすぐに気づいた。きっと心配してくれたのだろう。さっき、母を亡くした日を語った自分を。此処の藤の香りは彼よりずっと正直だから、わかってしまう。今はそう……気まずそう。小鳩がこみ上げた笑いを噛んでみたら、もっとだった。それでも気配が、離れることはなかった。
「では、さきほど教えてくださったあれが――?」
 琥珀が尋ねる。いいやと、答えたのはいおりょぎだった。
「あれは月のことばだ」
「月のことば?」
「強い血の出る直系にだけ、伝えられてきたんだろうな。水晶と一緒に。ふたつそろえばってことは、先祖ってヤツは予見してたんだろう。いつか水晶が、こんな形で顕れるようになることを。その日のために用意された、あれは子孫への遺言だ」
 ほうほうと、琥珀は何度も頷く。
「それならおふたりは、どうやって月のしらべを?」
 問いかけた琥珀に、小鳩は水晶と顔を見合わせた。

 どうやって。
 考えたこともなかったと、ふたり揃って不思議に思った。
「……どうやってでしょう? 水晶さん」
「えっ。どうやってでしょう……? いおりょぎさん」
 ぽいと丸投げされて、カッと、いおりょぎの目が光る。
「~~~~おまえらなっ! オレ様が知るかっ。自分らのことだろうがっ!」
 火炎混じりに怒鳴られて、ぴぃッと、小鳩は水晶と跳ね上がった。
「そっ、それはそうですけど……」
「でも……」
 今となれば本当に昔の話で、うーんうーんと悩んでしまう。けれど、あれやこれやと苦労をした憶えはなかった。歌えてしまったことにも、これまた間違いはない。きっと難しくはなかったのだろう。
 えぇとと、小鳩は抱えた頭をもう少し捻ってみることにした。
「あの日は……満月を見上げて」
「ええ、ふたりで」
 おずおずと記憶をたどりながら、水晶の手に手を重ねてみる。
 最初に右、それからゆっくりと左。
 指の細さも長さも変わらず、ぴたりと吸いついた。ぽぅと、引かれ合った手のひらに、点るものがある。ふたり空を仰げば、満月の光が視えた。白々と膨らんだ光輪に、意識が呑み込まれていった。
 あの時の、あのしらべは、
 どこからきて、どこからうまれたのだろう。
 探るように目を閉じれば、月に心も体もざわつき始める。――あの日。喉でもなく、腹でもなく。頭よりずっと高い処から、足下よりずっと深い処から。降り注ぐように積もって、舞い上がるように迸って。溢れ出そうとするものがあった。知らぬ間に満たされていた。
 それは……、
 今日も同じ…………?
 蘇る感覚が告げてくる。だからただ、浮かぶしらべを水晶と詠み上げればいい。
 真ん中に挟まれたいおりょぎの胸で、光が零れた。水晶の本体だ。俄かに取り出され、宙に浮かぶ。夜をたゆたう月から光明が届いて――ひらけた。瓜二つの自分たちを取り巻いて、湧きあがる歌声が円環を結んだ。光が水のように、そこへ流れ込んでくる。やがてそれは輝く泉となって、丸い月を映した。
 それで……と、小鳩は急に困惑した。パチリと目を開けてみれば、水晶も同じ顔をしていた。
「……ええといおりょぎさん?」
「あァ?」
「今日はそれで、これからどうすればいいんでしょう……?」
 こくこくと、水晶も頷く。ガクリと、いおりょぎが思い切りつんのめった。
「んだそりゃ! すんげぇの聴かせて、ヒトをいい気分にさせといておまえらはっ!」
「でもでもっ、こばとはもう、人ではなくなっていますし!」
「そうなってから、わたしたちがこうするのは初めてですし!」
「~~~~そりゃ……っ!」
 そうだなと、いおりょぎはぐっと詰まった。ここぞとばかりに、小鳩は水晶と、甲高い声を重ねて囀った。
「だからこれからどうすればいいのか、わかりません」
「前の時は、はっきりこうって、わかりましたけれど……」
「あの時のことについて知りたいというお話でしたから、歌ってはみましたけど……」
「そもそも今日は一体、どうしてそんなお話になったんですか?」
「そうですそうです」
「「ちゃんと説明してくださいいおりょぎさん!」」
「あー! うるせぇッ!!!!」
 堪らず声を荒げたいおりょぎに、今度は小鳩も水晶も引きはしなかった。むぅ。むぅぅぅ。と、そっくりなふくれつらで返答を迫る。しかしいおりょぎも一歩も引かず、ガミガミとわめき散らした。
「第一、水晶は聞いてたたはずだろうが! そりゃ、くまのヤツが言ったんだ! オレ様じゃねぇ!」
「ええ? そうでしたっけ」
 とんとおぼえがありませんとばかりに、水晶は首を傾げる。いおりょぎの青い体に、もっと青い筋が立つのを、小鳩は目撃した。
「寝てたのかおまえはっ」
「そう言われてみれば、そんな気も……」
「やっぱりか!」
「だってだって、いおりょぎさんも玄琥さんも途中からお話難しくて! つい眠くなっちゃったんですもの!」
「そうなんですか? 水晶さん。でもでもでも、眠くなってしまったものはしょうがないですよね」
「そうですよねこばとさん」
「そうですよ! こばともよく知らないうちに眠ってしまって……」
「ええ、わかります。そういう時ってすごーくきもちが良くて、いけないって思ってもついウトウトしちゃうんですよね」
「そうですそうです! すごく風がちょうど良かったり、今日みたいに藤の良い匂いがして、それでぎゅっとしてもらって頭を撫でてもらったりしたらもう目がとろーんとしてしまって……」
「ああっ、わかりますわかります! ほんとはわたしも起きていおりょぎさんのお顔を見ていたいですし、お話だってたくさんしたいんですけれど、もうあたたかくてふわふわーってしてしまって、ちっとも力が入らなくなってしまうんですよね!?」
「そうなんです! ほんとのほんとに、すごく困ってしまいますよね」
「ええほんとです。すごくすごく困ってしまいますよね」
 同意を得られた水晶は、科白とは真逆にとても嬉しそうだ。小鳩も嬉しくなってしまう。ここでもおそろしい天然以下ずっと前に同文――と、いおりょぎが思ったとも知らず、互いにうんうんと相槌を続けた。
「~~~~……あーもういい。めんどくせぇ。
 とにかくだ。こっから先、確かにどうすんだ? ……さっぱわかんねェな」
 吐き捨てていおりょぎは、がりがりと頭を掻いた。(そして何故だかちょっと顔が赤い。)わからないと、こちらでも一致した意見に小鳩は改めて困ってしまう。
 が、予想外にも「――いいえ?」と呟いた声が、微妙になった空気を割った。
「わかりました」
「「え?」」
 振り向いたそこで、琥珀が底抜けに明るく微笑んでいた。



 其ノ七 樹下ノ白銀

 歌は途切れても、眩く紡がれた空間は消えていなかった。月のことばによれば、うたのかがみ。けれど映る月はひとつのまま、漂っていた。
 そこへ琥珀とやらが、すっと足を進める。
「続きを歌っていただいてもかまいませんか?」
「は、はい」
「もちろんです」
「ありがとうございます」
 宿った藤の枝で、清和は事の成り行きを見守っていた。と言えば聞こえはいいが、単に口を挟む隙が無かっただけだ。(しかもさっきは何か恥ずかしくなるようなことも言われていたのだが、口を開く頃合い自体、やっぱり見当たらなかった。)
 小鳩に会いに、時々やってくる彼らはいつも賑やかだ。何年経ってもなかなか慣れぬ雰囲気だが、小鳩は嬉しそうなので気にはならない。今日はそこに、また新たな客が現れた。此処へ入ることをすんなりと了承できてしまうほどには、清涼な空気をまとっていた。
 てんし――だと言っていた。それが何かは知らないが、人でないのは確かだ。向けられた瞳の深さに、ひょっとして自分よりも長生きかもしれないと、清和はそう思った。
 小鳩と水晶の声が、また重なっていく。初めて聴くそれが、ただの歌でないことは肌で感じた。思えば僅かに、胸が痛む。これが小鳩を、人でなくしたもの。いいや人でないものに、戻したものと言うべきか。成程、一目瞭然の凄まじさだった。
 空気が騒ぐ。場が揺れる。圧倒的な心地良さで震わされる。
 彼女らが呼んだ月の泉は、歌声に触れて再び輝きを零し始めた。覗き込んで琥珀が、その水面に両手をかざした。
「帰りたい処があるんです」
 明瞭に呟くや否や、琥珀の唇も奏で始めた。思いも寄らずまた膨れ上がった響きに、びりびりと視界がぶれる。波に浮かぶようにして、小鳩と水晶の旋律に、琥珀の歌が滑り始めた。
 月と泉を繋いだ、白銀の一筋。
 それを中心にして、円環がもうひとつ、浮かび上がる。小鳩たちが作ったものと全く同じ大きさの。そのふたつが重なって、きらきらと新たな色に変わった。
 あれかと、清和は知らず得心した。帰りたいと言っていた。それならばきっと、あれを通り抜ければいいのだろうと。
 まさしく琥珀は、微笑んだ。歩き始めた。
「ありがとうございます」
 言い残し、光に呑まれた。

 世界はあっさりと、元の姿を呈した。
「……前と違いましたね」
「ええ」
 きょとんと呟き合うふたりも、いつも通りだ。何も変わらない。琥珀が消えただけだ。
「前はどうだったんだ?」
 ついに唇を動かした清和を、小鳩は思い切り丸い瞳で見上げた。確かにずっと黙っていたわけだが、そんなに吃驚した顔をしなくても――と、清和はたじろいでしまう。ゆらゆらと藤の花も、風に揺れてしまった。
 と、宙から落ちそうになった水晶石を、いおりょぎが受けとめる。元の袋の中へ、大事そうに仕舞い込んだ。
「前はほんとに、月がふたつになったな」
「ええ」
「そうですね。ああいう感じじゃなくて……泉に映ったお月さまからお月さまが浮かんで」
「真ん中で割れて、ふたつ横並びになって。またまぁるくなって」
「その片方がこばとの中に入っていった」
「今のは……二重? でしたね」
「はい。お月さまじゃなくて、泉に重なっていました」
「おぅ。あれが扉になったんだろうな」
 とんとんと会話を繰り出す小鳩たちに、清和は再びついていけない。思考は普通に追いつけているのだが、なんだろうか。話すこと自体が巧くないのだ。とりあえずまた、おとなしく聞き手に回ることにした。
「しっかしまあ、おまえらふたりだけでもとんでもないってのに。……ありゃまた破格だったな」
 嘆声を零したいおりょぎには、まったく同感だ。あれはとてつもなかった。清和の眼下――つまり藤の樹下で繰り広げられた光景は、人ならぬ自分たちにすらあまりに現実離れしていた。そう感じるに十分すぎるほど美しく、夢のように短かった。世にはかりかねるこんな神秘は、あと一体どれくらいあるのだろうか。それこそはかりかねる。
 不意に小鳩が、上目遣いで此方を見つめた。なんだか心配そうな顔をしている。「ちゃんと帰れたでしょうか」と、小さく呟いた。清和は瞬いて、それから苦笑した。
 はじめに月へ伸びた、一本の道筋。
 あれを通って、小鳩もまた月に帰れたのではないだろうか。もしも水晶と、今のような形を望んでいなければ。
 だが彼女はもう、ただ人でないだけではない。自分と結ばれて、とっくに藤の一部となり、山の一部となった。帰る処をあの月でなく、まっすぐ此処にしてくれた。人であろうとなかろうと、本当に結ばれる前ならば、此処以外を選ぶこともできたのに。
 ぽんと、清和は小鳩の頭に手を載せた。
「あのひとに迷いは無かっただろう? それに笑っていた。……きっと大丈夫だ」
 今ならと、感じたままを素直に告げてみる。すると小鳩は、ほっと顔をゆるめた。ついでに言うならば、ここで外野がいなければなんて思うのも、清和としてはまったく素直な自分の気持ちだ。おかげで藤も昔より、ずいぶん色濃くなった。
 ……人のままでも、おまえは変わらなかったんだろうな。
 それは口に出さず、足下に嬉しげに寄り添った彼女の髪を一房、掬い取るだけにしておいた。



 終 花とめがねと琥珀の空

『見つけられねぇなら、つくるしかないだろうな』
『あぁ?』
『俺やおまえ、それに嬢ちゃんたちだって、いるのは違う空間だ。だがあくまで同じ世界で、繋がっちゃいる。行き来もまあ、手順を踏めば難しくはない。しかしこのお客さんの場合は、そんな次元の話じゃねぇだろう。たまたま落ちてきた穴だって、まだ同じとこにあるとは限らねぇ』
『じゃあ戻れねぇのかよ』
『ばかか、言ったろうが。――つくれれば或いは、だ』
『つくるったって、おまえの饅頭じゃあるめぇし』
『まあ聞け。おまえ、嬢ちゃんたちのとこに行くんだろうこれから……』

「…………はくさん、琥珀さん?」
「え?」
 目を開ければ、自分を呼ぶ口元が見えた。さらさらと長い髪も。
「こばとさん? ……ですか?」
「はい。ああ良かったです、目を覚まされて。うたた寝されてるのかとも思ったんですけれど、もしかして具合が悪くて倒れていらっしゃったらって」
 安堵を微笑みに変えたその顔と、琥珀はさっきまでも一緒にいた。少し混乱しながら、周囲を見渡してみる。夜――ではない。月も出ていない。水色の空を、ほんのり飴色がかった雲が流れていた。陽の傾きからして、夕方手前といったところのようだった。
 ――これくらいの時間が一番、琥珀の目と同じ色をしてるな。
 いつだったか、そう言ってくれた声を思い出す。ああそうだ、……帰ってきたのだ。あの人の居る処に。
「琥珀さん? だいじょうぶですか?」
「あっ、はい。すみませんこばとさん」
 今度こそ本当に我に返って、琥珀は応えた。
「ちょっと着地を失敗してしまって」
「着地ですか?」
「はい。その、出てきたところが思ったよりも高くて、落ちてしまったみたいです」
「落ちてって……えぇ!? ほんとうにだいじょうぶですか!?」
「だいじょうぶです。地面さんがちゃんと、受け止めてくださいましたから」
「地面さんが?」
「はい。でもびっくりさせてしまいましたよね? すみません」
「いえっ、そんなことは。ご無事で良かったです」
「ありがとうごさいます、こばとさん」
 琥珀が深々と頭を下げると、小鳩も同じ深さまで頭を下げてくる。そんなところに彼女らしさを実感して、琥珀の気持ちも和んだ。慣れ親しんだ世界の空気に、だんだん体も落ち着いてくる。と、顔を上げた拍子に、長い影が視界に入り込んだ。
「……こんなとこで正座して、なにしてるんだ?」
「清和さん」
 ぱぱぱっと、小鳩の顔が綻ぶ。「琥珀さん?」と、こちらにも気づいた様子の彼は、小鳩の旦那様だった。少し目を見開いて、驚いている。にこりと、琥珀は笑って会釈した。
「こんにちは、藤本さん」
「あ、はい。ええと……?」
「この藤の木さんがあんまり良い香りだったので近寄ってみたら、琥珀さんがいらっしゃったんです」
「ああ。おまえ待ち合わせ場所にいなかったから、そんなことじゃないかと思って俺もこっちに来てみたんだが……」
「ああっ!? も、もしかしてこばと、探させてしまいましたか!?」
「……わかってんならいい」
「す、すみません~」
 偶然か否か、小鳩の言うとおり、琥珀が落ちたこの場所でも藤の花が咲いていた。が、あの場所のような、じっとりとした甘たるさはない。吹く風に弾かれて、むしろ爽やかだ。
 ああだこうだと、藤本夫妻は暫し、その木陰で微笑ましい遣り取りを展開した。慌てて立ち上がった小鳩に続いて、琥珀も静かに腰を上げた。
 紫の花房で、藤本の顔が一瞬隠れる。
「……?」
 何か心に引っかかって、琥珀は首を傾げた。藤本が後ろにくくった髪が揺れるのを見て、あっと気づいた。
「あの藤の木さん、藤本さんだったんですね!?」
「「はい?」」
「あ、いえこの藤の木さんではなくて。……ああそうです、あちらの方はめがねをしていらっしゃらなかったから気づきませんでした」
「「???」」
 たぶんさっぱり理解してないだろう彼らを見つめて、琥珀は瞳を細めた。仲睦まじく寄り添っている姿に、やっぱりそうだともう一度確信した。
「あの、琥珀さん?」
「あっ、そうですこばとさん」
「はい?」
「もしよろしかったらこれ、もらってください」
「え、え?」
 手に持っていたそれを、琥珀は小鳩に差し出した。今日はくまのバームクーヘンは手に入れられなかったけれど、歌のお礼だとあちらの世界で貰ったもの。こんなにたくさんいいんですかと言ったのに、竹皮に包んでいっぱい持たせてくれた店主の笑顔は、琥珀が見知ったものと同じくらい、からっとして気持ちが良かった。
「お饅頭のお裾分けです。きっととても美味しいですよ?」
「ええっ、いいんですか?」
「はい。今日のお礼に」
 深い意味を込めたつもりもなく、琥珀は手渡す。
 あの山はとてもきれいで、琥珀が法願――という天使の力を使うにも、空気が快くお手伝いをしてくれた。その上おあつらえ向きにも、小鳩と水晶が歌で呼び込んでくれたあれは、天使のそれとよく似ていた。混ざり気もない純粋な力で、十分に琥珀を助けてくれた。だから琥珀も、歌に行先を込めて、望む道を呼び寄せることができたのだ。何が欠けていても、こうも簡単には帰ってこられなかっただろう。
「ありがとうございます」
 受け取った小鳩は、顔いっぱいに笑みを浮かべる。嬉しそうにして、「楽しみですね清和さん」と、彼女の夫を見上げた。「あ? ああ、そうだな。――すみません琥珀さん、ありがとうございます」そんなふうに続けた彼も、妻に優しい眼差しを注いだ。
 琥珀はなんだかとっても、大切なあの人に――琇一郎さんに会いたくなってしまう。
 陽が落ちるまでにはおうちに帰って、琇一郎さんのお帰りを待って。ああそれから、夜になったらお茶とお饅頭を用意して、一緒に縁側でお月さまでも見て。
 そうしたら、今日あったことを話してみましょう。
 ほんのりと穏やかに、胸が逸った。









<後書き>
化けてる場合、しゅう一郎さんの漢字は以下ry
てか、なんだか琥珀さんが主人公? なんでしょうかねこれは。←訊くな
小鳩さん&水晶さんと琥珀さんの円環(法願?)が重なるとこは、『Wish新装版』2巻63Pのイメージです。
『Wish』に出てくる藤の精の蛍さんは、木だから目も見えないし歩けないとのことなんですが、うちの清和さんはうちの清和さんだからってことでご了承ください(笑)
パラレル世界だしってのもありつつ、まあそのへん、実は本人も憶えてない秘められた過去があったりしてもいいよねと思ったり。
最後に出てきた清こば@新婚さん風味は、一応アニメ設定の方々のつもりです。誰かさんの髪長いしね。
とりあえず、収拾がつかなくなるのが怖すぎて天然(三倍)会話は書けナカタヨー(´・ω・`)

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Re: すごい世界観ですっ!

▽ツンデレラさま
今ちょうど、手塚のプロポーズにうっかり涙ぐんだ私ですが何か。←

前篇から引き続き、最後まで感想有難う御座いました!
お言葉に甘え過ぎてレスが本当にだいぶ遅くなりましたorz
ちょっと私事でバタバタしてしまって、またしても思った以上に時間がかかってしまいましたごめんなさい(>_<)

おお!
清和さんと藤ノ木さんのほんのちょっとの違いに気づいてもらえて嬉しいです!
仰るとおり、木ですからね(笑)
しかも人と接点のない(笑)
だからきっといつもの清和さん以上にぼーっとしてそう…と思ってたらほんとにぼーっとしてました(笑)
書いた私もびっくりのぼんやりさん、おかげで小鳩さんの方が積極的☆

ハーフ(!?)設定は無くてもいいかなぁと思ってたんですが、てか無くても小鳩さんの心に変わりは無かったんでしょうが、驚いてもらえたので私としては満足です!
や、水晶さんとの関わりを考えたら何かしら欲しかったと言うのが一番なんですけどね。
かぐや姫だってほんとに好きな人が地上に居たら月になんて帰らないよなーとか、そんなイメージでした。
帰る理由があるなら別かもしれませんが。
でもそっち方向のゴタゴタはきっとご先祖さまがね、と思っています!←

そうそう、あちらのお二人はこうしてずぅぅぅぅぅぅっとイチャコラするわけですよ!wwww
毎日どんな日課なんでしょうねぇ(´∀`)
藤の木の子どもも良いですけど、いつか人間の子どもを拾っちゃったりとかも良いと思います(萌)
んで、藤の子どもときょうだい(男女の組合せは妄想によって∞)みたいに育ったりとかー!

いいですよねパラレル(うっとり)
設定起こすのは大変ですけど、たまに書くと楽しいです!
ツンさん良い機会を有難う御座いました~vvv
それでは。

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Re: No title

▽tsuyuriさま
まず土下座します本当にすみません!(泣)

今月ずーっとブログを放置気味だったので、全くコメントに気づいておりませんでした…。
いえ正確にはもう少し前に気がついたのですが、あれやこれやとしてる間に時が過ぎてこんな時期にレスとか…本当にごめんなさい地面に穴を掘って頭を埋めたいくらいの土下座をしたいです。うわぁあああんつД`)・゚・。・゚゚・*:.。

忙しいながらも充実した生活をしていらっしゃるようで、何よりです!
お元気そうで安心しました~。
そんな中でも拙宅に変わらず足を運んでいただいて本当に嬉しいです!
有難う御座います!!!

小説&イラの感想も嬉しかったですー!
>兄さんは普段無愛想だから、事務所の人が見たらビックリ
たいへん吹きましたwwwwwwww
そうですねホント、兄さんの笑顔とか……見たらビックリそうですよね!
「ちょ、藤本先生!?」ですよね(爆)
きっと「あんなだけど実は超が付く愛妻家で親バカなんですよ」とか噂されてるんでしょうねぇコッソリ。ぷぷぷぷ。

>花は紫-
こちらも有難う御座いました!
そうです藤ノ木さんは無口です、無口で小鳩さんしか見ておりません。
その他はほとんどアウトオブ眼中…とまでは言いませんが、関係者ならまあ目端に入れようかなってくらいですw
いお様&水晶さんのカップルは自分の予想以上に素でイチャイチャしてくれました。
これは意外と(藤こば以上の)バカップルかもしれないと思って、ちょっと面白かったですw

いつもながら温かいお言葉の数々、とても励みになります!
それなのにひどい遅レスで本当に申し訳ありませんでしたorz
少し涼しい日も出てきたので、tsuyuriさまも気温変化に体調を崩したりしないよう、どうぞお気を付けくださいませ。

それでは。

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