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⊿delta

Author:⊿delta
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『夢の通ひ路』

『こばと。』二次小説up。

ほんとにほんとに今更なんですが、お正月ネタ。
ちょこっと『ホリック』のキャラさんが出てきます。
あ、久方ぶりにアニメ設定です。
そろそろ自分で作った設定忘れそうでヤバい(´・ω・`)

考えてみたらお正月でなくても良かったかなーと思ったりもしましたが、まあ季節が季節なので…ってだからとっくに過ぎてるよ、と自分で突っ込む。
なんかこのあと甘いイベントもあるはずなんですが、そっちはイラスト描ければ描きたいです。
リアルでちょっと用事とかお仕事がばたばたばたーっと入って来ちゃったので、「大遅刻だな」って藤本さんに言ってもらおう……って思ったー☆←○ーラ風(やめれ

では、本文は追記からどうぞー。




 『夢の通ひ路』



 ほんの少し、目を離した隙にはぐれた。
「おまえ、それは?」
「え? あ。さっきもらったんです」
 幸いにしてすぐ見つかった妻の手には、何故か二つの風船。
「――きゃ、」
 誰に、と訊くより先に、彼女――小鳩がよろけた。初詣の人混みに背を押されて。
 それを咄嗟に抱きとめて、清和は息をついた。また見失ってはかなわない。今、周囲に余裕があるのは、宙を漂う風船だけだ。人間の方はそうはいかない。
「大丈夫か?」
「は、はい」
 眼下で、小鳩がほんのりと顔を赤める。ああ今年もこの角度でやられるのか――と、ぼんやり思って、清和はすぐに頭(かぶり)を振った。一年の計はなんとやら。年始早々の思考回路がこれでは、我ながら先が思いやられる。
「清和さん? ……お、怒りました?」
「え? は?」
 なんでそうなる?
 あさってな小鳩の科白に、清和は瞬く。
「だってこばと、はぐれてしまって」
 しおしおとうなだれた回答に、合点がいった。
 口元が緩んでしまうのは、どうしてだろうか。小鳩はまだ、清和にしがみついている。慣れない着物で、足下がおぼつかないのもあるだろう。けれどたぶん、それだけじゃないとも思えるから。
「……ばか。んなことで今更、怒んねぇよ」
 心配はしたけどな、とは口内だけの呟きとして留めておく。第一、やすやすと目を離した自分も悪い。こうもふんわりで、危なっかしい妻なのに。
「え? ……あ、」
「帰るぞ」
 家を出た時と同じように、彼女の手を軽く引いた。


 お子さんが泣いていたんです。
 眉をしかめて、小鳩が話し始めた。
「迷子さんかと思って、それで……」
「おまえも一緒に迷子になったと」
「そうです! どうしてわかるんですか!? 清和さんすごいですっ」
「……んな簡単な推理、俺じゃなくても出来る」
「ええ~でもすごいですっ」
 小鳩はいつもこうして、褒めちぎる。清和にとっては取るに足らず、また、当たり前に思えることを。
 つい、熱くなった眼鏡の下を誤魔化すように、清和は慌てて次の言葉を紡いだ。
「~~~~それで?」
「はい?」
「ちゃんと親御さんは見つかったのか?」
「はいっ!」
 こぼれた満面の笑顔のかたわらで、風船が揺れる。淡い光を滑らせて。
 そもそものきっかけは、破魔矢だった。買ってくるから待ってろと言ったのに、戻ったら小鳩はいなくて。鳴らした携帯も、みくじを結んだ時に自分が預かったままだった巾着袋の中で震えてくれたものだから――頭を抱えた。割とすぐ見つかったのは、知らぬはずもない歌声が聴こえたからだ。本人を見つける前に途切れて、少し焦ったが。
「で、その風船はどうしたんだ。その子にもらったのか?」
「あ、いいえ。違うんです」
「違う?」
「ええと、なんだか大阪弁で……ぬいぐるみさんみたいな、」
「はぁ?」
 唐突に曲がり始めた話題に、清和は目をすがめた。
「背は保育園の皆さんくらい小さくって。絵描きさんみたいな帽子をかぶってらっしゃって。お耳がちょんって感じで。お鼻が大きくて長くて……あ! マフラーもしてらっしゃいました!」
「……なんだその謎の生物は」
「ええとええと……。あ、そうです! ユメカイさんってお名前だっておっしゃってました!」
 聞きたいのは名前じゃねぇ、との突っ込みを挟む隙を、小鳩は与えない。
「これをくださる代わりに、わたしの歌声を売ってほしいっておっしゃったんです」
「歌声を……売る???」
「こばと、迷子さんと一緒に歌っていたでしょう? 迷子さん、それまですごく泣いていらっしゃって。だから歌ったら、お父さんとお母さんが見つけてくださるかもしれませんって言ったんです」
「ああ。――おかげで俺も見つけられたしな」
「はい! それでその、ユメカイさんはそれを聴いてらっしゃったみたいで」
 わけわかんねぇ。
 思いつつも、清和は口を挟まないことにした。小鳩には、元々こういうところがあるのだ。昔からなんとなく、日常からほんの少しずれた世界が付き纏う。
「よくはわからないんですけど……こばとの歌声に、なんだか良い夢がたくさん詰まっていたらしくて。それを、どうしても欲しいとおっしゃって。代わりに風船を三つくださったんです」
 ……三つ?
「俺には、二つに見えるが」
「一つは迷子さんに差し上げましたから」
「ああ……なるほど」
 奇妙な展開については至って冷静にスルーして、清和は相槌を打った。
 そうなのだ。確か前にも、こんなことはあったのだ。
 知らないヤツとむやみやたらに関わるなと、言うのは簡単だ。しかしこれはこれで小鳩らしいから、清和は有耶無耶のうちに容認してしまう。困ったものだ。
「そのあと迷子さんはお父さんとお母さんに見つけてもらえて、こばとも清和さんを見つけたんですっ」
「……見つけたのは俺だろーが」
 さすがにそこは突っ込む。えへへそうでした、と小鳩が笑った。
「良い初夢が見られるんだそうですよ? だから、もう一つは清和さんのです」
 こばとを見つけてくださったお礼に。
 告げた声は、さっき聴いた歌声と同じに朗らかだ。透明な空気を震わせて、見えない光を弾けさせる。そんなふうに眩しくて、優しい。
 どうしても欲しい、か。
 そう言われたのも頷ける。いつもそばで聴いている自分はぜいたくものだ。清和にとってはもう、現実の方がずっと夢のようだ。
 気がつけばもう、自宅前だった。
「そりゃ楽しみだな」
 そっと呟いて、清和は扉に鍵を差し込んだ。

      ※※※

 わんわんと、泣き声が響いていた。
 周りを囲んだ、一面の緑。黄色い影。広くて、なんだか迷路のようなひまわり畑だ。太陽を追う花が、見える青空にひしめいていた。地面を振り返ることなく、そびえ立った姿が遠い。
 思って、清和は自分の視点の、異様な低さに気づいた。
 ――良い初夢が……、
 と、頭上から不意に、昼間の声が降ってくる。
(ああそうか。これが)
 清和はするりと得心した。自分はどうやら、眠っている。そうして夢を見ている。
 だけど視界は、自分でない誰か――そう、この低さからすると――子どものもののようだった。やたらと近い泣き声は、たぶんこの子のものだ。
(迷子か?)
 可愛らしい声色に、時折見え隠れする長い髪。女の子だろう。ひまわり畑の中で、うずくまっているのか。膝小僧に、滲んだ血が見えた。時々きょろきょろと見回しているらしい景色は、ぐしゃぐしゃに歪んでいる。それだけで、もうずいぶんと長い間、泣きじゃくっているのだと想像もついた。
『ふ……っえ、おかーさん……おとーさぁん……』
 たどたどしく呼ぶ声は、胸に痛い。状況は分かっていても、清和にはなぐさめてやれない。この子の見ているものを、一緒に見ているだけだ。
 ふと、風が吹いた。夢を夢と気づいている、清和自身にも。
 ひまわりの茎をかきわけて、小さな人影が現れた。女の子が涙だらけのせいか、そうでない清和からも、顔立ちはよく分からない。けれど少年のようだ。
『……おい?』
 どうした、と少年は近づいてくる。
 ぼろぼろぼろっ。
 唐突に、涙が零れ落ちてゆく生温かさを清和も感じた。女の子と一緒に。
『――ふ、ええええんっ』
 堰が切れて溢れてきたのは、安心だった。


『目、わるいんですか……?』
 そう訊いてくる声が、どこから聴こえたのか。小鳩には分からなかった。自分に理由はないのに、びっくりしたように飛び跳ねた胸が不思議だった。
 どうしてだか、小さな手を握っている感触もある。
 別に、とバツの悪そうな声が呟いた。それがまるで自分のもののように、近くから聴こえる。ますます不思議だった。
(……ひまわり?)
 夏は保育園でも育てているその花を、小鳩は見つける。明るくて、太陽に光る姿がとても好きだ。だけど何故か、輪郭がぼやけている。
 不意に一度、視界が狭まった。ちょうど、目を細めた時のように。そうしたらひまわりが、一瞬だけちゃんと線を結びそうになって。また歪んだ。それで小鳩は、ああと思った。
(目が悪いんですね)
 じゃあそう言われたのは、自分なのだろうか。けれどこれまで、小鳩は一度だって目が悪かったことはない。
『ご、』
『うわっ!?』
『ごめんなさいぃ~……っ!』
 突然、最初に聴いた――女の子の声が泣き出した。
『な、なんでっ! なにが!?』
 慌てた声の方は、男の子のようだ。やっぱりこちらは、妙に近くで聴こえてくる。それに、どきどきと心臓が鳴る音も。自分のものでないのに、小鳩に伝わってくる。
 繋がれた小さな手が、温かく握り締められた。
『だって、痛そうです……!』
 女の子が言った。こちらを見上げて。なのに、顔はよく分からない。今はなんだか、急に目が悪いみたいだからだろうか。
『痛いのはおまえだろう』
 男の子が困っている。
 視線が動いて、女の子の膝が見えた。怪我をしたのか、ハンカチが巻かれている。
(あ……?)
 何かがひらめいたように、小鳩は思った。あれを巻いたのは。巻いてくれたのは。
『俺は痛くない』
『……ほん……っ、ほんとうに?』
『……ああ。だから泣くな』
 ほら、行くぞ。
 そうして歩き始めた彼らと一緒に、小鳩の世界も動いた。

      ※※※

 はち切れそうな光が二つ、リビングの真ん中に浮かんでいた。
「こりゃあ……」
 ぴょこぴょこと、いおりょぎはソファに近づく。
 家主とその妻は、そこでぐっすり眠っていた。正月料理でも喰ってやろうと、わざわざ来てやったと言うのに。いやそれより――、
「夢カイから買ったのか」
 すれ違い程度ではあるが、いおりょぎも見かけたことはある。これは夢を詰めた風船だ。それも吉夢と呼ばれる類の、良い夢。夢カイが飼って、育てたものだ。
「夜にもならねぇうちに初夢ってか?」
 まあいい、といおりょぎはテーブルの方を見上げた。お目当ての重箱は、まだちゃんとそこにある。おまけに日本酒も発見した。ヤツらが眠ってようが眠っていまいが、これさえあれば自分は満足だ。
 いそいそと、いおりょぎはテーブルに飛び乗った。そうすると、揺れる風船に目の高さが近づく。絡まった糸の先で寄り添う姿は、なんとも、ソファの二人によく似ていた。いつものこととは言え、あれだ。
「酒の肴にしちゃ、ちっと甘すぎだな」
 柔らかな光のおこぼれを受けつつ、酒瓶の蓋を開けた。

      ※※※

 少年に手当をされて、女の子はようやく落ち着いたようだった。しゃっくりを飲み込む回数が少なくなって、清和もほっとする。何もできない夢の中というのは、厄介なものだ。とりあえず女の子が、ひとりでなくなって良かった。
『どっちから来たんだ?』
 少年が尋ねてくる。女の子よりは少し年上に思えるが、やはりこちらも子どもだ。まだ声変わりはしていない。
 確かめるように、女の子の視線がゆっくり動いた。ひまわりの一群は、どこも同じに見える。みるみるうちに景色がまた水浸しになって、清和は慌てた。
『えっ! ちょっ!?』
 それは少年も同じだったようで、途端に驚いた声が上がる。
『わ、わかりません~~っ』
 小さな手が目を擦って、清和の視界も暗転した。困った、どうしよう――とは、たぶん少年も思っているだろう。そして実際にどうにかできるのは少年だけだ。女の子は、また泣き止まなくなってしまった。こうなった子どもはパニックで、そうそう泣き止んだりはしない。分かっていても、清和には手も足も出せない。
 目の前はなかなか明るくならない。けれど、ためらいがちな手がぽんと、女の子の頭に載った。
『……ふえ?』
 ぽん、ぽん……と何度か繰り返されている。清和には奇妙な心地だ。
 女の子の方は、徐々に呼吸を落ち着かせていったようだった。瞬いたらしい目に、やっと光が入り込んできた。
『だいじょうぶだ。俺は道、ちゃんとおぼえてる。だから、ここからは出られる』
『でら、れる……?』
『ああ。ほら、』
 強く頷くと、少年は女の子に手を差し出した。女の子はぐいと大きく涙を拭った後、その手を取る。その拍子に走った膝の痛みは、清和にも伝わった。それでもぐっと歯を食いしばって、女の子は立ち上がった。
『ええと……』
 ちょっとだけ間を置いた少年に、清和は若干の不安を思う。ほんとに大丈夫だろうか。
 女の子は、少年の横顔を見上げた。今ならちゃんと見える距離のはずが、清和にはよく見えない。ずっといまいちピントが合っていないのは、女の子が泣いているせいではなかったのだろうか。それとも、現実の自分の目が悪いからだろうか。単純に考えれば、夢だからかもしれない。
 しかし女の子は、ちゃんと見えているようだった。何かに気づいたように、め、と呟いた。
『目、わるいんですか……?』
 どうして、そんなことを訊いたのだろう。いや――訊かれたのだろう。
(……きかれた?)
 思いついた言葉が、清和に引っ掛かった。


 子どもたちはもうずっと、無言でひまわり畑を歩いている。
 だから小鳩に見えるのは、そんな景色だけだった。ただ、手の温もりは変わらずに伝わってくる。子どもらしく熱い体温だ。時として立ち止まる気配がすると、必ず視界が狭まった。両目をすぼめて、方向を確認している。小鳩にはあまり縁のない仕草だ。
(目が悪いのは、男の子さんのようでした)
 この頃になると、どうも自分が男の子と同じものを見ていると、小鳩にも分かるようになってきていた。いっしょうけんめい頭をひねっても、理由は思いつかなかったが。
『あ、あの』
 女の子が、おずおずと呼びかけてくる。
『なんだ?』
『めめめめがねをっ! すればいいんです!』
『……ああ、』
 そうだな、と男の子が答えた。
『? ……しないんですか?』
 どうして、と女の子が尋ねる。
 小鳩も同じように尋ねたくなったが、声は出なかった。男の子は歩き続けている。ぎゅっと、額の辺りに皺が寄る感覚がした。すると心臓も縮こまったような、そんな痛みも一緒に走った。
(どうして……)
 再び声にならなかった問いと共に、小鳩の胸も痛む。
『家……の人に、言いたくない』
『どうしてですか?』
 女の子は不思議そうに繰り返した。
『心配かけるし……買ってもらうのも、迷惑になる』
 ゆっくりゆっくり、男の子は言った。
『で、でも。みえないと困っちゃいます』
『まだ、そんなに困ってない』
『でもでも、ちゃんとしないとどんどん悪くなるんだって、聞いたことあります! そうしたらもっとたいへんで! ご本とか、読めなくなっちゃいますっ』
『……べつに、』
 女の子が食い下がっても、男の子の態度は変わらない。心が頑なに閉じている。ピリッと、小鳩はそこから弾き出されそうな気すらした。
 けれど、女の子が。
『だめですっ! 言わなかったらもっと……っ、』
 そう叫んで、今までで一番強い力で、男の子の手を引いた。
『うわっ!?』
『もっともっと……! し、しんぱいになっちゃいます……!』
 大きな泣き声が、どうしてもと訴え始める。だめです、と繰り返して。

(そうです、それで)
(そう、それで)

『あああああもう! わかったから!』

(そう言って)
(約束を)

 小鳩は――清和も。思った。
 この会話を知っている。

『……帰ったらちゃんと言う! だから泣くな』
『……ふっ、ぇ、ほ、ほんとですか?』
『ああ』
『じゃあじゃあ……ゆびきりです!』
『えっ』
『やくそくは、そうするんです! だから、ゆびきりです!』
『~~~~わかった』

 すうっと、絡んだ小指が遠ざかった。

      ※※※

 ぱらぱらと、光の屑が降ってくる。目の中に落ちては、痛みも感じさせず溶けてゆく。
 何が何だか分からなくても、起き抜けの光景は綺麗すぎた。目が覚めたことに、暫く気づかないほど。
 清和は呆然と、瞬きを繰り返した。ソファに沈み込んだ体が、徐々に軋んでくる。確か、小鳩が着物を着替えている間、ここで新聞を読んでいたのだが。
「きよかずさん……?」
 はたと気づけば、その小鳩が傍らにいる。ずるずると清和の胸から体を起こして、眠そうにこちらを見上げた。
「うわっ!? おま、いつの間に……っ」
 驚きの近さで、一気に目が覚めた。目前で揺れる髪の香りが、清和を現実に引き込む。腕はちゃっかり小鳩の腰を抱いているし、パニックで星でも出そうだ。
「よーぉ、起きたかぁ~~」
 背後から聴き慣れた――今はあまり聴きたくなかったダミ声。
「おまえもいつの間……っ」
「いおりょぎさんっ」
 小鳩が明るく、清和の科白を押し潰す。ぴょーんと、いおりょぎがソファの背に飛び移ってきた。……酒臭い。日本酒あけたなコイツ、と清和は渋面を浮かべた。
「あけましておめでとうございます! です~」
 小鳩は嬉しそうに、清和の腕の中からいおりょぎに告げる。半分ソファに押し込まれた状態で、清和は身動きが取れない。
「ちょ、」
「おう。ことよろってぇヤツだな」
「おまえらっ」
「こと?」
「んだよ知らねえのか? ことしもよろしくーってことだ」
「ああそれで! じゃあこばとからもことよろです~!」
 清和の頭を挟んで、会話は勝手に進行していく。頼むからどいてくれ、と妻には懇願したい。ぶっちゃけこれは押し倒されている。今じゃない時にしてほしい。
「そんで? いい夢は見れたか?」
「夢? ですか?」
 いおりょぎに訊かれて、小鳩は不思議そうに言った。
「んだよ。風船、割れたじゃねぇか。夢カイの」
「あああああっ!? ほんとですっ」
 そうだ、と清和も思い出す。二つとも、ソファの腕に結んでおいたはずだ。が、目端で確認してみると、糸が二本、へにゃりと垂れている。風船の姿はない。いおりょぎの言うとおり、割れてしまったのだろう。じゃあさっきの光は、それだったのだろうか。残された糸にも、僅かな煌めきが見えた気がした。
 うーんうーんと、小鳩は頭を抱えている。
「ゆめ……ゆめ……見た気はするんですけど……」
「おう」
「お、思い出せません~」
「はぁ? なんだよそれ。あんだけ良さそうなの、もったいねぇ」
 いおりょぎは心底つまらなそうに、ぼやいた。
「き、清和さんは? どうでしたか?」
「え? ああ……そう言えば、」
「そう言えば?」
「………………俺もおぼえてねぇ」
 暫く考えてみたが、清和も小鳩と同じく思い出せなかった。何か切れ端のようなものは浮かぶのに、つかめない。
「おまえら揃いも揃って……」
 いおりょぎは呆れ顔だ。
「で、でもでもっ! 良い夢でしたよ? ――たぶんっ」
「たぶんておまえ」
「だってずっと、すごくあったかでした! だからぜったい、良い夢です!」
 ぜったいです、と小鳩が主張した。何故かそれには清和も賛同してしまう。たぶん、本当に良い夢だった。そう思える。
「……ああまあ、夢カイの夢だ。そーだろーよ」
 軽く呟くと、いおりょぎはソファから飛び降りた。若干の千鳥足で、何もない壁に向かって歩いていく。
「いおりょぎさん?」
「おまえらのカオも見たし、そろそろ行く」
「ええっ、もうですか?」
「おー。新年は他にも挨拶があるかんな。――そうだ藤本、」
 呼びかけられて、清和は驚いた。いおりょぎがわざわざ自分に、というのは珍しい。
「なんだ?」
 つとめて、普通に応えてみる。が、小鳩に乗りかかられているこの体勢が体勢なので、全く決まりはしなかった。いやまあ、今更なのだが。
「来年の黒豆は、もちっと甘さ控えめにしろ」
「――……は?」
「甘いのもいいんだが、酒の肴にゃちょっとな~。つか、甘ぇのはおまえらだけでじゅーぶんだろ」
「! ば……っ! 知るかっ」
 勝手に来て勝手に喰って文句言うな!
 叫びはむなしく、いおりょぎの消えた壁に反射するばかりだった。


 青い後姿を見送って、小鳩はしょんぼりとしてしまう。
「行っちゃいました~……」
 もう少しゆっくりお話して、一緒におせちを食べて、と思っていただけに残念だ。いおりょぎは気まぐれで、いつ来るのか分からない。そうは言っても、数を数えればしょっちゅう会っている計算になるのだが。まあそういうのは、数の問題じゃないからしょうがない。
 また来るだろ、と清和がため息をつく。ぐったり疲れている様子なのはどうしてだろう。けれど、さらっと髪を撫でてくれた手が嬉しかったから、小鳩は「はい!」と大きく頷いた。
「……ところで奥さん、」
「はい?」
「~~~~そろそろ、どいてほしいんだが」
「ああっ!? ご、ごめんなさい~っ」
 すっかり夫を押し潰している自分に気づき、小鳩はあたふたと体を起こした。
 その拍子に、割れた風船のかけらを見つける。
「こばと?」
 怪訝そうに、清和が目を細めた。眼鏡はかけていない。新聞を持ったまま眠っているのを見つけた時、小鳩が外してしまったから。
「清和さんは――、」
 頭の中を、何かが掠める。それからじっと、小鳩は清和の顔を見上げてみた。
「清和さんは、いつから目が悪いんですか?」
「――え、」
 ぱち、と清和は瞬く。小鳩と違って、切れ長の細い目。思い出すように、眉間に皺が寄った。それと一緒に、細い目がますます細まっていった。
「たぶん、中学に上がる前……くらいから…………?」
 そう答えた清和は、一度だけ軽く、目を見開いた。それから急に考え込むような仕草をして、黙ってしまう。小鳩もそれを、黙って見つめた。なんだか。そう、……なんだか。お互いに言葉が見つからない。
 小鳩と清和は、どちらともなく目線を動かした。あの風船の抜け殻へと。もらった時から、うっすらとした黄色をしていた。今はその黄色が、やけに目につく。
「――あ、あのあのあのっ」
「? なんだ?」
「こばとっ、今年はひまわり畑に行きたいです!」
「ひまわり畑……?」
 あんまり急に変わった話題に、清和はびっくりした顔をした。無理もない。小鳩も自分で自分の科白に、びっくりした。
「あの、今っ、ちょっとだけ思い出して……っ。さっき見た夢、ひまわり畑だったなって……」
 思い出したものより先に、言葉の方が勝手に滑り出していた。でも、それ以上は分からない。ただ夢の色だけが、小鳩の頭を覆い尽くしていた。あれは……夏の黄色だ。
「ひまわり……」
「だ、だめですか?」
「ああいや、そうじゃなくて。その、俺もひまわり畑だった気がして……」
「え?」
「気のせいかもしれないけど――……でも、そうだな。行くか」
 微笑んで、清和は小鳩の頭に手を載せた。その温もりが嬉しくて、小鳩は思わず、清和の胸に飛び込む。二人仲良く、またソファに沈み込んだ。
「わっ!? こ、こら!」
「じゃあじゃあ、ゆびきりです!」
 小鳩は這いずるようにして、清和の胸から顔を出した。彼の口元に小指を近づけて、にこにこと笑ってしまう。
「えっ」
「約束! ですよ?」
 う、と清和が少しだけ言葉に詰まる。
 小指と小指が、しっかりと結ばれた。






fin.


<後書き>
タイトルは百人一首の『天津風~』からもじりました。
前にもこんなことあった――は、いつぞやに書いたハロウィンネタ参照でお願いします。
こばとちゃんがちゃんと生まれ変わったとするなら、清こばが子どもの頃にニアミスしてたっていいじゃない!――という妄想は昔からあったのですが、コレはそこにこないだの眼鏡妄想をくっつけた形です。
と言って、これをはっきり記憶だと限定する気もないのですが。
(小さな頃にそれぞれが見たお揃いの夢を、大人になって取り替えて見ている――というのもアリかなぁと)
まずこの夢を誰がどうやって夢カイさんに売ったのか、という問題もあったり。
うしゃぎさんでいっかと思ってるなんて、そそそんなことないんだからねっ!?←
ま、とにかく曖昧にして誤魔化してるってことです。←言っちゃった!(笑
あ、夢カイさんはホリックに出てきます。九巻です。
とても面白可愛らしいビジュアルなので、機会があれば是非とも実物(?)を見ることをおススメします。
初夢には諸説あるんですが、私は個人的に、新年の最初に見た夢なら何でも初夢!と思っているのでご容赦ください。
そんなことより何より、今更お正月ネタで本当にすんませんでした……(´・ω・`)2ガツナニソレ

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Re: 盛りだくさん、ありがとうございましっ!

▽ツンデレラさま
わーい感想有難う御座います!
着物さらっと書いてしまったんですが、小鳩さん一人で脱げるのかなぁと後から思った私でした。
まさかの一人で脱げない事故があって清和さんを呼びに行ったらソファで寝てたから待ってるうちに一緒に寝ちゃって、だから起きた時点ではすげー中途半端に着崩した状態になっちゃってて――とかだったらそれなんて俺得!!!!!!!
(いえもちろん全くそんな裏設定はないのですがwww)
そんなんソファでそれこそ…………いやいや駄目ですよ一年の計は、ですもん!
年中ソファなんて許しませんっ!(`・ω・´)←おまえの発想の方が許されないよ…

>チビーず
おお再び清和可愛いに貴重な一票が…!
良かったです可愛いって言ってもらえてv
しっかしこれでチビ清も迷子だったりしたらテラワロスなんですがw

いっそちっちゃい頃の方が、清和は小鳩ちゃんより弱そうな気がしますイメージ的に。
どっちも言葉が拙い分、勢い負けしそうw
ああまあ大人になっても違う意味では完全ノックアウトなんですけどwww
押し倒されるしwww
どけらんなくもないと思うんですけどねぇ、そうすると色々触っちゃうしいお様はいるし大変だったんでしょうねぇ。
別にそのまま上にいてもらっても始められ…いやいやいやいやいやだからそうじゃないって戻ってきて私の脳味噌!←無理

こんな妄想(と書いて夢と読もうと思いましたw)でツンさんが悪酔いしないか心配ですが、この後いちばん(小鳩さんに)悪酔いってか悪乗りしそうなのは清和さんなのできっと大丈夫ですねっ!(^^)
それでは。

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